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ALアミロイドーシス

ALアミロイドーシスは多発性骨髄腫(以下、骨髄腫)と共通するところがありますが、罹患率は骨髄腫の約1/10と非常にまれな病気です。

骨髄腫は、形質細胞という免疫細胞の腫瘍(がん)です。ALアミロイドーシスでも骨髄腫と一見同じに見える異常な形質細胞が確認されますが、骨髄腫よりも少数です。しかしこの異常形質細胞は、少数であってもアミロイドと呼ばれる異常な蛋白を作り続け、この異常な蛋白は体内の臓器や組織に付着、蓄積していき、組織障害をもたらします。骨髄腫は形質細胞のがんですが、ALアミロイドーシスはいわば“たんぱく病”と言えます。

この病気の厄介な点として、診断が難しいこと、一度付着したアミロイドは分解されにくく、なかなか除去されないことが挙げられます。まれな病気であるため、一般内科診療ではなかなか遭遇されません。診断には、障害されている臓器や組織の一部を採取して顕微鏡でアミロイドを確認する必要がありますが、顕微鏡での確認も特殊な方法を用いるため、経験のある施設でなければ難しいことがあります。

< 参照:多発性骨髄腫はどんな病気?(イメージ) >

骨髄腫では、骨髄で異常な形質細胞が増加し、異常な免疫グロブリン(M蛋白)が血液中や尿中で増加します。形質細胞やM蛋白が増えることにより、貧血、骨異常、高カルシウム血症、腎障害といった典型的な症状を引き起こします。

< ALアミロイドーシスはどんな病気?(イメージ) >

ALアミロイドーシスでは、骨髄にいる異常な形質細胞は少数ですが、異常な蛋白質(アミロイド)をどんどん作り続けます。アミロイドは全身の臓器や組織に付着し、機能障害を起こします。AL型アミロイドが付く可能性のある臓器は脳以外のほぼ全身に渡るため、骨髄腫とは異なりさまざまな症状を起こす可能性があります。

*ALアミロイドーシスは骨髄腫の類縁疾患であり、骨髄腫に合併して見られることがあります。言葉上の問題ですが、骨髄腫に合併した場合は続発性ALアミロイドーシスと呼ばれます。(骨髄腫がない場合は原発性ALアミロイドーシス)

*アミロイドと呼ばれる蛋白は本来多くの種類がありますが(30種類以上)、ALアミロイドーシスにおいてはAL型のアミロイドが病気の犯人となります。アミロイドーシスという病気も、アミロイドの種類によって複数の病型に分類されています。

  • 症状

ALアミロイドーシスで障害される主な臓器は、心臓、腎臓、消化管(胃や腸)です。その他肝臓、自律神経、軟部組織(舌、皮下組織、筋肉、リンパ節)、肺が挙げられます。症状の出方は患者さんによってさまざまであり、1年以上軽い症状で経過している方もいれば、2〜3ヶ月で症状が顕在化する方、強い複数の臓器障害が急速に進んで全身状態が悪化してしまう方も見られます。

・心臓:心臓は心臓の筋肉が運動することにより全身に血液を送っていますが、心臓の筋肉(心筋)にアミロイドが付着すると心筋は硬くなり、なめらかな筋肉運動ができなくなります。これにより心不全をきたし、全身のむくみや息切れが見られるようになります。不整脈も発生し、突然死に関わる危険な不整脈が起こることもあります。危険な不整脈の診断がされた場合は、除細動器を体内に挿入する手術が適応となることがあります。心臓のアミロイドーシスは命に関わりやすく、迅速に治療を進めることが重要です。

・腎臓:腎臓のアミロイドーシスは、腎機能が徐々に低下するタイプと、ネフローゼ症候群を引き起こすタイプの2タイプに大きく分かれる傾向があります。ネフローゼ症候群は、大量の蛋白尿とむくみを起こす腎臓の障害です。蛋白尿は、トイレで尿が泡立ちやすいと自覚されることがあります。むくみは、足の皮膚を指で押すと明らかにへこむことで自覚されます。腎機能低下は、特に症状なく、気がつかないうちに進行することがあります。治療が遅れると血液透析が必要となってしまうこともありますので、早めに治療を開始することが大切です。

・消化管:消化管のアミロイドーシスは、特に症状がないこともありますが、原因不明の食欲低下、胃痛、腹痛、下痢をきたすことがあります。症状が強い場合は、全く食べられない、1日数回の下痢が続くなどで、体重減少が急速に進んでしまうこともあります。体力低下が進んでしまうと治療の負担も増えてしまいますので、早めに治療を開始することが大切です。

・自律神経:血圧低下、立ちくらみが見られます。症状が進むと起き上がるのも難しくなることがあります。そのほか、手足の痺れや皮膚の違和感が自覚されることもあります。

・軟部組織:皮下組織にアミロイドが付着すると毛細血管が弱くなり、アザができやすくなります。ALアミロイドーシスにおいては、両目の周りに紫色のアザが広がることがあります。舌にアミロイドが付着すると、舌が異常に大きくなり、口が閉じにくくなることがあります。これらは他の病気ではほとんど見られない症状です。体の筋肉にアミロイドが付着すると、筋肉が硬く腫れた感じになります。リンパ節にアミロイドがつくと、リンパ節の腫れをきたします。

・肺:肺へのアミロイド付着は中でもまれですが、肺の影として見られます。

  • 診断

先述の通り、障害されている臓器、組織を一部採取し(生検)、顕微鏡でアミロイドを確認することが前提となります。アミロイドを確認し、ALアミロイドーシスの場合はアミロイドがAL型であることを同定する必要があります。

加えて、ALアミロイドを作っている“犯人”を確認する必要があります。犯人は骨髄にいる異常な形質細胞ですので、骨髄検査を行います。

これらの検査は専門的に行われますが、血液検査でアミロイドの前駆物質である異常免疫グロブリンを確認することは、ALアミロイドーシスを疑うのに有用な手がかりとなります。ALアミロイドーシスにおいても、骨髄腫と同様のM蛋白がほとんどの例で検出されます(数値は骨髄腫より低値です)。免疫グロブリンの一部であるフリーライトチェーン(遊離L鎖)と呼ばれる分子には、カッパ(κ)とラムダ(λ)の2種類の型がありますが、ALアミロイドーシスにおいては主にラムダ(λ)の値が、カッパ(κ)を明らかに上回って上昇しています。フリーライトチェーンは血液検査で調べられますが、体内のアミロイド量と比例するため、治療でいかにこの数値を下げるかが重要となります。

  • 治療

付着したアミロイドを壊す治療は開発されていません。治療の目的は、できるだけ早くアミロイドの生産を止めて、これ以上アミロイドを増やさないようにすることです。そのためには、骨髄にいる異常な形質細胞をできるだけ破壊する必要があります。異常な形質細胞は骨髄腫のがん細胞と非常に似ていますので、骨髄腫と一部共通した治療が行われますが、ALアミロイドーシスの患者さんは骨髄腫の患者さんよりも深刻な臓器障害を持っていることが多いため、慎重に治療を進める必要があります。骨髄腫と同様、治療により形質細胞を極限まで減らすことができても、残念ながら徐々に再燃してしまうことが知られていますので、長期的に管理をしていく必要があります。ALアミロイドーシスはまれな病気ですが、私が過去在籍しておりました日本赤十字社医療センター血液内科は、数多い患者様の治療実績があります。

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