びまん性大細胞型リンパ腫
[1]びまん性大細胞型リンパ腫 (DLBCL) とは
- びまん性大細胞型リンパ腫 (Diffuse large B-cell lymphoma; 以下、DLBCL) は、悪性リンパ腫の中で最も多いタイプのリンパ腫です(全体の1/3)。進行速度が比較的速く、急速進行型リンパ腫に属します。
- 腫瘍細胞の蛋白発現パターンから、さらに以下の2タイプに大別されることがあります。
GCBタイプ (germinal-center B cell-like) |
ABCタイプ (non-GCB) (activated B cell-like) |
- 厳密には発現遺伝子に基づいた分類ですが、実際には病変の病理組織検査で複数の分子発現を確認した上で分類されています。ABCタイプはGCBタイプよりも治療経過がいくらか不良と言われており、治療計画上、有用な情報となりえます。
- DLBCLは最も多い一方、細かく分類しきれていない複数のタイプが混在していると見なされ、同じDLBCLであっても患者さんごとに経過が大きく異なることが頻繁に見受けられます。例えば、次の2つの例は症状が大きく異なりますが、どちらも診断はDLBCLです。
例1)
首の横にしこりがあるのに気がついた。痛みがないので様子を見ていたが、1ヶ月たっても小さくならないので家の近くの耳鼻科を受診した。大きさが2cmくらいあり、大きな病院の血液内科を受診するように言われ紹介状をもらった。3週間後、紹介状を持って受診。血液検査および、同じ病院の耳鼻科でリンパ節の検査を勧められ、翌週リンパ節生検を受けた。2週間後に結果を聞きに行ったところ、びまん性大細胞型リンパ腫の診断と説明を受けた。PET検査、骨髄検査を受けたが、病変は頸部リンパ節のみであり、化学療法3コースと放射線治療を勧められた。
例2)
3週間前からだるさが強く、1週間前から食欲が低下し、夜にこれまでにない寝汗をかくようになった。近くの内科を受診し血液検査を受けた。翌日医師から電話があり、肝臓の数値が悪く、血小板という血液細胞の数値も低いので、早めに大きな病院の血液内科を受診するように言われた。紹介状を受け取り翌週に血液内科を受診。血液検査で肝機能障害、血小板減少があり、LDHという数値が異常に上昇していると言われ、急遽次の日に入院となった。CT検査では肝臓が腫れて大きくなっており、お腹の中のリンパ節も大きく、腹水が少し溜まっていると言われた。骨髄検査をしたところ異常なリンパ球が増えていると言われ、悪性リンパ腫と言われた。ステロイドの投薬を始め、その後R-CHOP療法を受けた。骨髄検査でDLBCLという診断となり、R-CHOP療法を6回続けることとなった。
[2]DLBCLの症状
表在リンパ節の腫れ(首回り、脇の下、鼠径部=足の付け根) 発熱や異常な寝汗(汗を吸った下着が絞れるくらいのことも)、体重減少、だるさ、食欲低下 腹痛、左脇腹の痛み 歩行障害、意識障害(認知機能低下、いつもと言動が違うなど)、痙攣 など |
[3]リンパ腫が疑われたら・・・
1. 血液検査で体の状態を評価します。LDHやsIL-2Rといったリンパ腫と関連する数値も調べます。B型肝炎ウイルスをはじめとする感染症の有無も確認します。
2. 体のどこに病変があるか全身を調べます
CT検査、PET検査、骨髄検査
*状況により胃カメラ、大腸カメラ、髄液検査
[4]DLBCLのステージ分類(進行度分類)
リンパ腫のステージ分類として一般的なAnn Arbor分類が使われます。DLBCLは非常に個人差が大きく、頸部リンパ節の病変1つだけでステージ1(治療で治癒する可能性が高いです)の場合もあれば、全身のリンパ節病変に加え、リンパ節とは無関係の臓器(例えば消化管や腎臓など)、神経でもリンパ腫細胞が増殖しているステージ4など、病変の広がり方はさまざまです。
※リンパ節以外の病変(節外病変)…肝臓、腎臓、消化器、肺、心臓、甲状腺、乳腺、生殖器、脳や脊髄神経、眼、骨、皮膚などが該当します。扁桃、脾臓は元々リンパ球の居場所であり、節外病変には含まれません。
[5]DLBCLのリスク分類(予後予測システム)
DLBCLのリスク分類には、リンパ腫のリスク分類として一般的なIPIが使われます。
IPI (International Prognostic Index) :国際予後指標
下図の5つのリスク因子のうち、該当する数によってリスクが分類されます。
[6]DLBCLの治療
初発時の治療方法
ステージ |
治療メニュー |
ステージ1, 2 |
R-CHOP療法 3コース+放射線 R-CHOP療法 4コース(+R 2コース) R-CHOP療法 6コース pola-R-CHP療法 6コース(+R 2コース) |
ステージ3, 4 |
R-CHOP療法 6コース(+R 2コース) pola-R-CHP療法 6コース(+R 2コース) R-DA-EPOCH療法 6コース |
R-CHOP療法とpola-R-CHP療法は、使う薬剤、治療スケジュールがよく似ています。治療効果はほぼ同等に優れており、副作用も大きな違いはありません。
R-CHOP療法 | pola-R-CHP療法 | |
1コース=21日間、合計6コース | ||
リツキシマブ | ◯ | ◯ |
ポラツズマブベドチン | ◯ | |
ドキソルビシン | ◯ | ◯ |
ビンクリスチン | ◯ | |
シクロフォスファミド | ◯ | ◯ |
プレドニゾロン | ◯ | ◯ |
※R-CHOP療法の詳細はこの先の「R-CHOP療法とは」をご覧ください。
再発時の治療方法
治療メニュー | 使われる薬剤 |
ワンポイント |
pola-BR療法 | ポラツズマブ ベドチン、ベンダムスチン、リツキシマブ | 抗体薬2種類を含む、比較的副作用の少ない治療。白血球減少に注意。 |
R-DA-EPOCH療法 | エトポシド、プレドニゾロン、ビンクリスチン、シクロフォスファミド、ドキソルビシン |
複数の抗がん剤を含む、R-CHOPよりも強度の強い治療 リスクが高いと言われる一部のDLBCLで選ばれることがあります |
R-DHAP療法 | シスプラチン、シタラビン、デキサメサゾン | 白血球減少、腎障害に注意 |
R-ICE療法 | イホマイド、カルボプラチン、エトポシド | イホマイドの副作用予防に大量の点滴を併用します |
R-ESHAP療法 | エトポシド、シタラビン、シスプラチン、メチルプレドニゾロン | 白血球減少、腎障害に注意 |
自家移植 | 大量化学療法+自家末梢血造血幹細胞移植 | 強力治療で副作用も強いため、65〜70歳以下の方で検討されます |
BiTE (二重特異性抗体) |
エプコリタマブ | 免疫反応増幅によるサイトカイン放出症候群(発熱、血圧低下)に注意が必要です。2種類以上の治療を受けた後に適応となります。 |
CAR-T細胞療法 |
アキシカブタゲン シロルユーセル リソカブタゲン マラルユーセル |
有力な治療法ですが、治療施設が限られ、治療スケジュールの綿密な調整が必要です。免疫反応増幅による特殊な副作用があります。 |
同種移植 | 大量化学療法(+全身放射線)+同種造血幹細胞移植 | 強力治療で治療関連死亡の可能性があるため、慎重に検討されます。 |
R-CHOP(アール・チョップ)療法とは
- R-CHOP療法で使われる薬剤
薬剤の名前 | 副作用(主なもの) | |
R |
リツキシマブ Rituximab(リツキサン) |
アレルギー反応(発熱、蕁麻疹、酸素濃度低下)、B型肝炎ウイルス再活性化 |
C | シクロフォスファミド Cyclophosphamide(エンドキサン) | 白血球減少、脱毛 |
H | ドキソルビシン Hydrochloride Doxorubicin(アドリアシン) | 白血球減少、吐き気、脱毛、心機能低下 |
O | ビンクリスチン(オンコビン Oncovin) | 白血球減少、脱毛、末梢神経障害(手足の痺れ、便秘など) |
P | プレドニゾロン Prednisolone (プレドニン) | 不眠、血圧上昇、食欲増加、血糖上昇、免疫力低下、骨粗鬆症 |
- R-CHOP療法のスケジュール
- R-CHOP療法のオプション
ステージ1, 2でIPIが低リスクの場合は、治療で治癒が期待できます。ステージ3, 4でIPIが高い場合は、治療で病変が消えても再発する可能性があります。再発してしまった場合、十分な体力がある方は、自家移植やCAR-T療法により治癒を目指します。十分な治療が難しい場合は、できるだけ腫瘍量を減らし体調を維持できるよう、工夫した治療がご提案となります。