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悪性リンパ腫

  • 悪性リンパ腫(以下、リンパ腫)はリンパ球のがんです。一言でリンパ腫と言っても、その種類は80に及びます。リンパ腫というのはこれらの総称であり、正確には「○○型リンパ腫」「 ○○性リンパ腫」といった細かくて難しい名前の病型が存在し、それぞれによって全く違う病気と思われるほど異なることがあります。非常に種類が豊富なリンパ腫ですが、頻度としては「びまん性大細胞型リンパ腫」が全体の1/3を占め最も多く、次に「濾胞性リンパ腫」が多く見られます 。
  • リンパ球は体中に存在するため、リンパ腫は体のどこからでも発生すると言えます。ただ、先述の病型により、病変※の場所、症状、進行速度にはある程度のパターンが存在します。病型によって治療方法も全く異なることがありますので、病型診断は大変重要となり、病型診断が正確な診断名となります。 ※病変= リンパ腫が実際に増殖して形成している異常領域

リンパ腫は非常に多種多様な疾患群であるとも言え、すべてのリンパ腫をシンプルに説明することはほぼ不可能です。ここでは、リンパ腫総論として次の項目についてご説明いたします。

[1]リンパ腫の分類

リンパ腫は病型が最終的な診断名になりますが、非ホジキンかホジキンか、腫瘍リンパ球はBリンパ球かTあるいはNKリンパ球か、進行が早いかゆっくりかによっても大きく分けられます。非ホジキンリンパ腫とホジキンリンパ腫はほとんど別物です。Bリンパ球とT/NKリンパ球も性質が大きく異なるため、治療戦略や治療薬が異なることがあります。リンパ腫は進行速度の違いにより、治療方針の枠組みが分かれる傾向にあります。診療においては、いずれの分類も念頭に置かれます。

  < 病理所見に基づく分類 >

非ホジキンリンパ腫

ホジキンリンパ腫

化学療法のメニューが異なる

ホジキンリンパ腫は日本では比較的少なく、非ホジキンリンパ腫が大多数を占める(95%程度)

ホジキンリンパ腫は多くは予後良好

    < 腫瘍リンパ球の種類に基づく分類 >

B細胞性リンパ腫

T/NK細胞性リンパ腫

B細胞性が多く、T/NK細胞性は比較的まれ

T/NK細胞性は治療が難しいことが多い

使える治療薬が異なることがある

    < 腫瘍の進行の速さに基づく分類 >

急速進行型(アグレッシブ)リンパ腫

 

例)びまん性大細胞型リンパ腫

高悪性度リンパ腫とも呼ばれる

週単位(もっと速いものは日単位)で増大する

何らかの自覚症状を伴うことが多い

できるだけしっかり治療をして完治を目指す

緩徐進行型(インドレント)リンパ腫

 

例)濾胞性リンパ腫

低悪性度リンパ腫とも呼ばれる

数ヶ月〜年単位でゆっくり増大する

無症状のことが多い

治療をしても完治は難しいものが多く、診断されても無症状であれば一旦経過観察となることがある(ある程度進行したり、自覚症状をきたすような場合に治療導入となるが、治療で消えたように見えても時間経過とともに再発する)

 

[2]リンパ腫の症状
次のようなものがありますが、実際はこれらの症状がなく別のことをきっかけに診断されることも多く、逆にこれらの症状があっても別の病気であることもあります。リンパ腫特有の症状はないといえます。

表在リンパ節の腫れ(首回り、脇の下、鼠径部=足の付け根)

発熱や異常な寝汗(汗を吸った下着が絞れるくらいのことも)、だるさ、食欲低下

腹痛、お腹の膨満感   など

リンパ節の腫れは、リンパ腫以外にも複数の原因があります(リンパ節腫脹)。リンパ腫によるリンパ節は、通常痛みがありません(急速に激しく大きくなっている場合は、周りの組織を圧迫して痛むこともあります)。また、触るとコリコリとした硬さがあります。

[3]リンパ腫が疑われたら・・・

1. 体のどこに病変があるか全身を調べます

  CT検査、PET検査、骨髄検査

  場合によって胃カメラ、大腸カメラ、髄液検査 など

2. リンパ腫によって体に悪影響が出ていないか、ご本人の全身状態を評価します

  問診、血液検査、レントゲン、CT など

  血液検査ではリンパ腫の腫瘍マーカーともされる可溶性インターロイキン2レセプター (sIL-2R)も調べます。

3. 病変の一部を採取し、病理検査によって最終診断をつけます(最も大事です)

  採取する病変は、患者さんにできるだけ負担が少ない場所が選ばれます。首回り、脇の下、鼠径部などで、体の表面から浅い位置でリンパ節が腫れている場合は、局所麻酔による外来手術で採取できることもあります。体の内部に病変がある場合は、超音波内視鏡(超音波のついた胃カメラを使用し、細い針で胃の近くのリンパ節を採取する)、CTガイド下生検(CTで生検針の位置を確認しながら病変目がけて針を進め、採取する)などの方法がありますが、いずれも難しい場合は開腹手術で病変を採ってくる場合もあります。

病理検査の結果には1〜2週間を要することが多いです。リンパ腫の進行が速いなどの理由で1〜2週間も待てない場合は、病理検査以外の細胞検査で暫定的な診断がされることもあります。また、まれに診断が難しい場合があり、複数の病理医による所見が取られ、最終的な診断に1ヶ月程度かかることもありえます。

[4]腫瘍マーカー;sIL-2Rについて

可溶性インターロイキン2レセプター soluble interleukin-2 receptor (sIL-2R)

リンパ球の活性化に伴い血液中に上昇する分子であり、リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)の腫瘍マーカーとして広く使われています。リンパ腫の腫瘍マーカーは基本的にsIL-2Rのみとも言えます。(高悪性度リンパ腫においてはLDHも病気の勢いを表すことがあります)正常値は検査方法により多少差異があり、概ね120〜500 (U/mL)くらいのことが多いです。

腫瘍マーカー全般に言えることですが、万能な指標ではないため、他の所見も併せて総合的に評価することが大切です。あくまで私見ですが、3000以上のときはリンパ腫の可能性を強く疑い精査を進める必要性が高く、免疫が関わる他の所見がある状況で1000未満のときは、慎重な評価が必要と考えております。

当院では院内でsIL-2Rを測定しており、40分程度で結果が出ます。リンパ腫の患者様、リンパ腫の可能性が否定できない患者様において検査を行っております。

使い方 注意点

・リンパ腫が疑われるとき;診断の補助として

・診断後、経過のフォローに;治療が順調に効いている時は低下傾向、完全寛解になると正常化、再発時は上昇傾向

・免疫が活性化する他の病気でも上昇する(感染症や自己免疫疾患など。風邪症状でも2倍近く上昇しうる。)

・リンパ腫でもあまり上昇しないことがたまにある(この場合は腫瘍マーカーとしては使えない)

 

[5]リンパ腫のステージ分類(進行度分類)

固形癌は、主座となる臓器の病変があり、ここから近いリンパ節への転移、遠い臓器への転移でステージが決められます。リンパ腫は主座となる臓器がない、病変がいくつもあるなどの理由で、進行度がわかりにくく不安に思う方も少なくないのではと思います。リンパ腫のステージ分類について簡単な絵にしたものが以下になります。横隔膜が境目になること、リンパ節以外の病変の有無がポイントとなります。

  注)患者様ご自身のステージについては、担当の先生にご確認ください

  注)消化管原発の場合は別の分類があります(Lugano分類)

※リンパ節以外の病変(節外病変)…肝臓、腎臓、消化器、肺、心臓、生殖器、脳や脊髄神経、眼、皮膚などが該当します。扁桃、脾臓は元々リンパ球の居場所であり、節外病変には含まれません。

[6]リンパ腫のリスク分類(予後予測システム)

リンパ腫においては、進行度を分けるステージ分類とは別に予後を予測する分類もあり、合わせて評価されます。代表的な分類はIPIで、急速進行型リンパ腫に用いられます。これ以外に病型ごとに定められた分類が複数存在します。

IPI (International Prognostic Index) :国際予後指標

下図の5つのリスク因子のうち、該当する数によってリスクが分類されます。

[7]治療方針の考え方

治療方針は急速進行型リンパ腫と緩徐進行型リンパ腫で、次のように大きく異なります。

急速進行型リンパ腫
•診断されたら待機せずに治療を開始し、基本的に根治を目指します。理由を次に示します。

 ・進行が速く症状や臓器障害をきたしやすいため、放っておくと数ヶ月以内(極端に進行が速いタイプは数日以内のことも)に命に関わるため

 ・再発した際も上記と同様の身体リスクを伴い、かつ脳や神経系への浸潤で治療の難易度が上がるリスクがあるため

•治療は化学療法が基本で、治療期間はだいたい半年前後です。再発してしまった場合、より積極的に治癒を目指す場合は、年齢、体力的に適応となれば自家移植(自家末梢血幹細胞移植)、同種移植が検討されることもあります。近年はCAR-T(カーティー)細胞療法という免疫療法も有力な治療手段となっています。
•ステージや病変の場所によっては放射線療法を組み合わせることもあります。
緩徐進行型リンパ腫
•病変が1ヶ所に限られる限局期の場合は、放射線や負担の少ない化学療法(リツキシマブ)で治療が検討されます。
•病変の数が複数存在する進行期の場合、診断されても治療は待機となり、経過観察の方針がとられることが多いです。“がん”と診断されたのに治療をしない、というのは違和感や不安を持つ方もいらっしゃるかと思いますが、次の事実が根拠となっています。
 ・治療をしても基本的に治癒しない。治療をすれば見た目上はリンパ腫が減ったり消えたように見えるが、体のどこかに少数のリンパ腫細胞が残り、いずれ再発してしまう。

 ・早く治療を始めても生存期間が延びるわけではない(寿命が延びるわけではない)。

 ・体内にリンパ腫があっても症状はなく、通常通り生活できていることが多い。

•このため、早く治療を始めるメリットがないということになります。かつ治療には患者さんの時間、費用を費やすこととなり、副作用も軽くても全くないとは言えないため、無症状の方が早くに治療を始めることはむしろ損をすることにもなりかねません。
•経過観察では2〜3ヶ月ごとを目安に血液検査でマーカーを確認したり、年1回CTを確認したり、という方法がとられます。
•経過中、医学的に治療開始をお勧めするのは、次の場合です。

 (1) リンパ腫に関連する症状があって困る場合

 (2) 内臓や身体機能に負担を生じている場合(血液検査などで判断されます)

 (3) リンパ腫が規定の基準を超えて増えた場合

 (4)(例外的ですが)リンパ腫が限られた場所・範囲にとどまり、治療によって根治の可能性が期待できる場合

•治療は化学療法が基本で治療期間はだいたい半年前後です。上記4の場合は放射線治療となることもあります。急速進行型と比べて、内服治療が適応となることもあります。緩徐進行型として代表的な濾胞性リンパ腫では、再発を遅らせる目的で維持療法も行われます。
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